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長野・穂保地区のリンゴ農家・

台風19号被害、2か月後の現実

藤原勇彦(ジャーナリスト)

台風19号が日本列島に上陸し、各地に被害をもたらしてからほぼ2カ月。千曲川の左岸を走る「アップルライン」に沿ってリンゴ農家が広がる長野県長野市穂保(ほやす)周辺を訪ねた。10月13日早朝、千曲川本流の堤防が70メートルにわたって決壊し、2メートルを超える水位で濁流が襲った地域。明治時代に始まったとされる長野でのリンゴ栽培の中心地帯だ。その歴史を感じさせるリンゴの古木が、幹から割れてなぎ倒されている。赤いリンゴが地面に散り敷き、枝に残ったわずかな実も、泥にまみれている。

●災害ゴミの光景
穂保に入って最初に感じたのは、何とも言えない洪水の匂い。リンゴの木にも家々にも道路にも、洗っても洗っても取り切れない土砂がこびりつき、乾いて埃となって舞っている。
本来、川の氾濫は、土地を肥沃にしてくれるめぐみの側面を持っていたはずだが、現代生活では、濁流にゴミと化した様々な生活物資が紛れ込む。2か月たった今も、地域の公園の集積所には、毎日大量の災害ゴミが運び込まれる。それは、東日本大震災の津波被害で見た光景、そっくりそのままだ。
 

●遅れる農地復旧
復旧の進み具合は、早いとは言えないように見える。土壁の古民家が目立つ古びた集落は、壁や床が抜けてあちこち空き家になっている。住人は避難所から仮設住宅やみなし仮設へと居を移し、現地では何とか住める家が残った少数の住民とボランティアが、ゴミや土砂の整理をしている。
最も復旧が遅れているのは、数10センチも土砂が積もったリンゴ畑だ。この土砂は取り除かないと生き残ったリンゴの木も、根が窒息して枯れてしまう恐れがある。農家支援のボランティアや軽トラ持参のボランティアが募集され始めたのはここ数週間のこと。農業はそれ自体が個人の営利事業だとして、公的支援が遅れてきた事情が推測される。今は、農業ボランティアもそれなりに増えたが、農地の持ち主が自宅を離れているなど様々な事情で、復旧作業は週末に限られ、遅れがちだ。

●暮らしの重い転機
被災地は、まもなく雪の季節を迎える。それほど深く雪が積もるところではないが、その季節になれば、復旧の歩みは止まる。リンゴ農家には若い経営者もいなくはないが、多くは60代70代の人々だ。今年1年の成果を無にしたうえで、農地やリンゴの木が回復しなかった時、果たしてリンゴ栽培を継続する意思を持ち続けられるだろうか。台風19号の直接の人的被害はこの地域ではそう大きくはなく、それゆえ全国的な注目も浴びていないようだ。けれど、暮らしの上の重い転機がおとずれていることを、多くの人に知ってほしい。

2019.12.12

けなげに実をつけているリンゴ。売り物にはならない

けなげに実をつけているリンゴ。売り物にはならない

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洪水で折れたリンゴの古木

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廃棄されたリンゴ

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土砂をかぶった根を掘り出した様子

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土砂が乾いてひび割れる。そこにリンゴの実が埋まっている

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数十センチも土砂が積もっている

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災害ゴミの集積場

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壁に残る浸水跡とボランティアの人々

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被災した古民家